好きは閉じ込めて【完】

今日だって迅くんと同じ大学の友達らしい可愛い女の子が何人かでバイト先に来ていて迅くんが接客していた。
みんな迅くんを見つめる瞳がすごいんだよ。
瞳からすきが溢れちゃってる。
わたしが対応した時とは大違いだ。


わたしがテーブルへ行けばなんだよおまえ。おまえは呼んでないんだよ。迅くん連れてこい。って視線をしっかり送られた。悲しい。



その子たちが帰るとき迅くんに「何時に終わる?」とか「待ってていい?」って言ってたのはこっそり聞いていた。

そんなふうに純粋にアピールできるあの子たちがすごく羨ましい。
わたしは彼女たちみたいにストレートに伝えることはできないから。


彼女たちのアピールに本人は「遅いから無理」の一言で片付けていて、彼の素っ気ない感じに内心ほっとしたけれど胸にあるザワザワはやっぱり消えない。



「迅くんのひとたらしっ」

立ち上がってさきほど作った雪玉をすぐ近くで気だるそうに立っている彼にぽんっとぶつけた。

迅くんは何にも悪くないけどもやもやするし、むかつくんだもん。これくらいいいよね。



投げた雪玉は彼の腕のあたりに当たるとまんまるの形を残したまま地面に向かって落ちていった。


「いって、…ひとたらしってなに。史華(ふみか)さん」


そう言って腕をすりすりしているけれど全く痛くなさそう。


迅くんがたまに呼んでくれるわたしの名前がすごくすきだ。
せんぱいって呼ばれるのも好きだけど名前で呼んでもらえたらその何倍も嬉しい。


年下なのにわたしよりずっと落ち着いていて大人っぽい彼は今日もクールで、名前を呼ばれるだけでどきどきして忙しないわたしとは全然違う。


今だってわたしに意味のわからない言葉を言われても冷静に首を傾げている。