太宰修也は、自分の手で人生を終わらせるまで、幸せに暮らせていたとはメルキュールは思っていない。辛い記憶を思い出すだけだというのに、何故傷をもう一度掻きむしるようなこの街を小説に登場させたのか、それがメルキュールにはわからないことだった。

(僕とノワールが前世の記憶があるなんて、リオンたちには言えないからな……)

この疑問はノワール本人に直接聞くしかない。メルキュールはノワールの見慣れた姿を探し続けた。

「メルキュール、この小説には一体何体物の怪がいるんだ?」

カズに訊ねられ、メルキュールは敵の数を探る。どうやら一体だけのようで、それを伝えるとカズは「ならすぐに倒せるな」と余裕の笑みを浮かべていた。

しかし、ノワールを探し続けているリオンたちは何故オズワルドが小説の中に自分たちを閉じ込めたのか疑問を抱いていると表情が物語っていた。

「……捜査が忙しいので、私たちに任せたんですか?」

シャルロットはそう訊ねるが、リオンは「それならあんな強引なことはしないはず」と首を横に振る。メルキュールの頭の中には、昨日の夜のことが浮かんだ。