消えていく。頭の中が真っ白になって、大切なことが消されていく。そんな感覚がした。したような気がした。

僕、太宰修也(ださいしゅうや)が目を覚ますと、いつもと変わらない自分の部屋があった。小説を書くためのパソコン、床に散らばった資料、普段の僕ならこの部屋に何も感じなかっただろう。

「何だろう、この違和感……」

僕は胸元を掴む。この部屋を見ていると胸が騒つく。まるで知らない土地に放り出された時のような不安感だ。変わらない自分の部屋なのに……。

「とりあえず、顔を洗おう」

もう忘れてしまったけど、きっとよくない夢を見てしまっていたんだ。それで不安になっている。きっと、顔を洗えば落ち着くはず。

「今日は打ち合わせはないし、小説は昨日完成してる。久々の休みかぁ……」

廊下を歩きながらそんなことを呟く。休みとはいえ、平日だからみんな仕事だろう。でも、僕に友達と呼べる人は少ないし、小説執筆以外にやりたいことは見つからない。