「ほんの少しだけ…そしたら…俺、北海道に行っても頑張れるから。例え、雫ちゃんがいなくても…この温もり…絶対に忘れない」


声…震えてる。


きっと、泣いてる…


そんな慧君に、かける言葉が見つからなくてすごく切なくなった。


私は、こんなにも自分を大切に想ってくれてるこの人のことを、突き放すことはできなかった。


私の中には、祐誠さんがいる。


他の男性を男として好きだと思うことはない。


だけど、ずっと励ましてくれた仲間としての深い友情みたいな感覚は…やっぱり失いたくないって思った。


「ごめん…こんなことして。ルール違反だよな…」


私は首を横に振った。


そんな私に向けて、慧君は言葉を続けた。


「北海道に行っても、ずっと想ってる。勝手に想ってるだけだから気にしないで。俺、絶対に雫ちゃんのこと忘れない。とにかく、あと2ヶ月。最後までこっちで頑張るから、よろしく…」


慧君は私から離れ、微笑みを残し、帰っていった。


「最後だなんて…言わないでよ」


慧君の背中を見ながら、私は小さな声でつぶやいた。


きっと、慧君はここで私を待っていてくれたんだろう。


うぬぼれかも知れないけど、そんな気がしてならなかった。


その想いに私は応えることはできないけど、それでも今日、ちゃんと話せて良かった。


北海道はすごく遠い。


だけど、慧君の夢が叶うのは…


そんなに遠い未来じゃないと…私は心の底から信じたかった。