『会いたい』って…私も自然に言えた。


「じゃあ、仕事が終わったらマンションに来て。今日は少し早めに戻れると思う。雫が焼いたパン、頼めるかな?」


「わ、わかりました。リクエストはありますか?」


「もちろんクロワッサン。イチゴジャムも。あの時の味が忘れられないから」


初めて祐誠さんに私が焼いたパンを食べてもらった時のこと…思い出した。


苦手なのに美味しいって言ってくれて。


「必ず持って行きますね」


「楽しみだな」


「美味しいの、頑張って焼きますから」


「それもだけど…早く雫に会いたい」


スマホからこぼれる艶やかで色気に満ちた声。


あまりに素敵過ぎて…


今まで、男性の声をこれほどまでにドキドキしながら聞いたことはなかった。


私は、鼓動を鎮めるために、思わず空を見上げて息を思いっきり吸い込んだ。


「待ってるから。気をつけて」


「は、はい」


2人の会話は、そこで終わった。