慌ただしく過ぎていく日々…


それでも、5月のうららかな陽気に私の心は穏やかだった。


ゆらゆら風に揺れる木々の葉、地面に植えられた小さくて可愛らしい花々。


白い雲の隙間を飛び交う鳥たち。


私はそんな景色に目を向ける余裕がある自分に、ちょっと嬉しくなった。


『杏』に向かう途中、スマホが鳴ってることに気づき立ち止まる。


画面には…


『祐誠さん』と出てる。


嘘…


「あっ、はい。美山です」


「雫…」


「祐誠さん…」


「ただいま」


優しい声。


どうしてだろう…


ちょっとだけ、目が潤む。


「…おかえりなさい」


言葉が喉の辺りに詰まった…


まだ『雫』と『ただいま』しか聞いてない。


なのに、胸がいっぱいになる。


「今夜…雫に会いたい」


ドキッ。


何かが心に刺さった。


決して痛くない、優しい何かが…


「は、はい。私も…お会いしたいです」