『美味しかった』

「どういたしまして」


母にお礼を告げてから、身支度を再開させた。

母はいつも、話しながら手話をしてくれる。

そのおかげで、短い言葉なら手話がなくても口の動きだけで、相手が言ってることがわかるようになった。

耳が聞こえなくても、社会で立派に生きていけるようにと、母は試行錯誤しながらも一生懸命育ててくれた。

そのおかげで、今年から一般の大学に通うことができる。

母には感謝しかない。


一通り身支度を済ませると、部屋に向かった。

今日のオリエンテーションで必要なものや、スマホ、お財布などをカバンに詰める。

そして、最後にノートとペンを入れ、カバンのファスナーを閉める。

カバンを持ってリビングへと向かうと母がダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいた。


『行ってきます』

「行ってらっしゃい」


母に挨拶をし、大学へと向かうべく、家を出た。