彼女が愛しくて仕方ない。早く自分のものにしたくて堪らない。
騎士団での職務のことばかり考えていた自分が、今や頭の中はリサのことでいっぱいだった。
ジルベールはこの3日の間で、ある重大な覚悟を決めていた。
しかしそれを出会ったばかりの彼女に伝えるには時期尚早だと考え、もう少しリサと距離を縮めたいと思っていた。
一方リサは迷いに迷った末、今日で最後にしようとバラ園を訪れていた。
何も言わずに出ていくのは、彼に対してあまりにも不誠実だと自分に言い訳をして。
本音では…もう1度だけ、ジルベールと2人きりで会いたかった。
これで最後だと、リサは部屋で何度も自分に言い聞かせてきた。
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「リサ。君のその俺への遠慮は、いつになったらなくしてもらえるのかな」
リサは自分との身分差に思うところがあるのかもしれない。
出会った頃は王子だと知らなかったがために、あんな風に素直に涙を零し悩みを打ち明け、強引に一緒に来いと言った自分の言葉に頷いてくれたのだろう。
だがジルベールにとって自分が王子でありリサが侍女であるということは、なんら問題ではなかった。
確かにジルベールは王位継承権を持ち、このままいけば兄に代わりラヴァンディエの王座に就くこともあり得る事態になりそうだ。そうなれば、自ずと妻は王妃になる。リサほどその座に相応しい女性をジルベールは知らない。
リサにはまだ何も話せていない。
今回のレスピナード訪国で、どんな茶番を演じているのか。
決して自分はシルヴィアの花婿になるために来たのではない。それだけでも今リサに伝えてしまいたい。



