おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


実際に会うことが出来た彼女は見た目の美しさだけではなく、姫としての気高さの中に温かい優しさと子供のような無邪気さを併せ持った素敵な人だった。何よりも、身寄りのない自分を拾ってくれた大恩がある。

シルヴィアの未来は『めでたしめでたし』で彩られた素晴らしいものでなくてはならない。

リサはあの絵本に何度も励まされてきた。
理不尽な出来事に悔しくて泣きたくなった時、怖い悪役も意地悪な人も出てこない平和な世界に何度も救われた。

大好きな絵本の世界の結末を、憧れていたお姫様の将来を、自分が壊していいはずがない。リサは右手の薬指にはめていた指輪をゆっくりと抜き去った。

その時から、リサはジルベールに対し他国の王子という一線をしっかりと認識するよう自分に課した。




◇◇◇

「具合でも悪いのか?昼も夜もあまり食べていなかっただろう」

ジルベールは心配げにリサの顔を覗き込む。

今までこんな風に誰かを想うことはなかった。
リサの一挙手一投足を見逃すまいと常に彼女に気を配っている。そんな今の自分に苦笑しつつ、昔の自分に教えてやりたいとも思う。

ずっと自分は生涯独身を通すと思ってきた。王位も不要で、剣の道に身を捧げると思ってきた。
しかし、リサに出会ったことで全ては変わった。