公爵がシルヴィアの退路を経つために王子が来る前日まで来訪を秘密にしていたせいで、何の準備も出来ずに当日にギリギリで城を出発したのだ。
そこに不思議な奇跡が起こり、歩き疲れて休んでいたところに梨沙がこの世界に転生してきた。
倒れていると勘違いしたジルベールがリサをレスピナードに送ってきたことで、王子が来る前に城を出ていくという目的は達せられなかった。
過去の自分が書いた手紙を読み、溢れる涙を抑えきれなかった。
ジルベールの側にいたい。
そんなリサの切なる想いは、自分を救ってくれたシルヴィアの幸せの前になんとちっぽけなことか。
――――やはり城を出よう。
ジルベールは異国の血やこの黒髪を厭いはしないだろうが、シルヴィアと結婚する以上、彼に想いを寄せている侍女が側にいるのを良しとはしないだろう。
彼ならシルヴィアの誠実な夫になってくれる。
シルヴィアを幸せにしてくれる。
彼女は城を出ていくのは許さないと優しく咎めていたが、仲睦まじい2人を見ながら側で仕えていく自信がリサにはなかった。
あのバラ園での出来事や2人でお忍びで出掛けた思い出は、互いに夢だったと思えばいい。
きっとシルヴィアとの結婚が決まれば、ジルベールだってそう思ってくれるはずだ。
リサは自分の心に何度も繰り返し言い聞かせる。
ずっと憧れていた絵本の中のお姫様。可愛くて美しくて、うっとりする程華のある女性。



