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その日の晩餐会を終え、一旦シルヴィアの部屋の隣りにある控えの間に戻ってきたリサは、昼過ぎにシルヴィアから受け取った紙に改めて目を通した。
そこには見覚えのある文字で、ある決意がシルヴィア宛に書かれていた。
『シルヴィア様
私がこの城に来てから、もう10年以上の月日が経ちました。
幼い頃、レスピナードでは珍しい異国の血が混じっているであろう黒髪の孤児を、貴女が拾ってくださった。
公爵様も、リサという名前以外持たなかった私に、恐れ多くもレスピリアという姓を与えてくださった。
シルビア様、私はあなた方の恩に報いたい。そう思ってお側でお仕えしてきました。
今度いらっしゃる花婿候補様が、私のような身分も身寄りもない者を近くに置いていることで、どんな感情をお持ちになるかわかりません。
貴女の幸せの邪魔になりたくはないのです。
長い間、本当にお世話になりました。
貴女の幸せと、レスピナードのさらなる繁栄をお祈り致しております。 リサ 』
手紙を持つ指先が震える。確かにこの手紙を書いたのは自分だった。
そう。リサは4日前、この城を出ていこうとしていた。
シルヴィアの花婿候補が到着してしまう前に、どうしても城を出ていきたかった。



