そうなれば、ジルベールは一体どうするのだろうか。
昨夜、彼は甘えていいと言ってくれた。自分の意見を言ってもいいのだと。しかしそんな事をすれば悲しむ人がいる。
じわりと涙が滲みそうになるのを、なんとか下唇を噛みしめることで耐える。こんな所で泣くわけにはいかなかった。
頭の中であれこれと考えていたリサの前に、シルヴィアは1枚の紙をずいっと押し出してきた。
「だからね、これは返すわ。私は見なかったことにする。もし本当にリサがここを出ていくことがあるとしたら、それはリサが結婚するときよ。こんな手紙ひとつでサヨナラなんて許さないわ!」
ぷんぷんと頬を膨らましながらも、シルヴィアのリサを見る目は優しい。公爵家の姫が侍女に対して持つ感情以上に、優しく慎ましいリサを同い年ながら妹のように思ってきた。
仕事はしっかりとしてくれるのに、自分の事はあと回し。
全てこの城のため、シルヴィアのために生きてきたリサには、本当に幸せになってもらいたいと心優しい姫は考えていた。



