「リサ」
近付いてきた人影にすぐに気が付いたジルベールが、穏やかな笑みを湛えてリサを迎える。リサもその微笑みに笑顔を返そうとするものの、相手が本物の王子だと思うとどうしたらいいのかわからない。
これでは、ジルベールが初対面で訝しがっていたとおりになってしまったのではないだろうか。
リサが仕える主人であるシルヴィアの花婿候補としてやってきたジルベールに対し、あわよくば取り入ろうとしている肉食系メイド。
今与えられている幸せは、決して自分のものではないのではないか。考えれば考えるほど、どうしたらいいのかわからなくなっていく。
「おいで」
リサの手を取りベンチに誘ってくれる。本物の王子様みたいにエスコートしてもらった場面は何度もあったのに、まったく気が付かなかった。
全てはあの絵本の通りに進んでいくものだと思っていた。
並んでベンチに腰掛け、端正な顔立ちをじっと見つめる。切れ長のすっきりとした目元、形の整った鼻、薄いけど柔らかそうな唇。どこからどう見ても美しいその顔は、何度見ても見慣れることなくリサをドキドキさせる。
従者だと思っていた時でさえ異性に慣れず緊張していたというのに、本物の王子様を目の前に何を話したらいいのかわからない。
ここに来るまでになんとか気分を落ち着けてきたはずだったのに、リサはすでに泣きそうなほどパニックに陥っていた。



