おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


「リサ?一体何をそんなに驚く?君も公爵との謁見の場に居ただろう」
「だって…、芝居を打ちにって言ってたから…。てっきり『王子様役』なのかと…」

正直に絵本の話をするわけにはいかず、リサは馬車の中で聞いた話を引き合いに出した。
ジルベールは一瞬きょとんとしたあと、「あぁ」と納得したような顔をした。

「芝居と言ったのはまぁ、正確には俺ではなくて…」
「え?」
「あ、いや。…その件はまた後日話そう。俺の独断では話せない」

彼が何を言わんとしているのかが全くわからず、首を傾げるリサ。

しかしひとつ確実なことは、目の前の彼は従者などではなく、正真正銘本物の王子様だということだった。




◇◇◇

3回目にして既に習慣になりそうな夜のバラ園での逢瀬。今夜は風も穏やかで少し暖かい。
リサは今日知った驚愕の事実をなんとか受け入れながらこの場所まで歩いてきた。


あの後、リサは街中であることも忘れて慌ててその場に跪いた。

「…リサ?」

瞬時に眉を顰めるジルベールの表情は、跪き俯いているリサの視界には入らない。

「無礼をお許しください。私、今までなんという失礼なことを…」

胸の前で震える手を握るリサの肩を掴み、ゆっくりと立ち上がらせた。