実際、何度か感じたことがあった。
ジルの気品溢れる佇まいが、従者が演技をしているにしては完璧過ぎるのではないかと。
それは実際にシルヴィアのふりをしている庶民のリサだからこそ感じる疑問だった。
いくら普段から側に仕えているとはいえ、あのように完璧に主人に成り替われるものだろうか。
絵本の通りなら、ジルベールは王子のフリをしている従者であって本物の王子様ではないはずだ。
だからこそこうして2人で城を忍び出ても許されると思っていた。
そうでなかったとしたら、自分はとんでもない思い違いをしていることになる。
少しばかり逡巡して、リサは思い切ってジルベールに問い掛けた。
少しの希望と、大きな躊躇いをもって。
「えっと、だって…、ジルは、本当は王子様じゃない…ですよね?」
「……正真正銘ラヴァンディエ王国の王子だが」
「えぇっ?!」
もしかしたらと予想をしていたにも関わらず、あまりにも驚きすぎてリサにしては珍しいほどの大声が出た。
困惑極まりないといった表情のジルベールだが、リサはそれ以上に驚愕していた。
無理もない。ずっとジルベールは王子のフリをしている従者だと思っていたのだ。
なぜならここは絵本の中の世界。リサの知っているストーリーの通りならば、シルヴィアと入れ替わっている自分と同様に、目の前の彼も花嫁の人となりを観察しようと言い出した王子様と入れ替わった使用人のはず。
それがまさか、本物のラヴァンディエ王国の王子だったとは。



