一連の出来事をベンチに座ったまま何も出来ずにただ見ていたジルベールは、リサの愛情溢れる行いに対し強く胸を打たれた。
転んだ少女を助け起こしただけでなく、自分のものを躊躇いなく差し出せる。それも押し付けがましくなく、小さな女の子が遠慮しないように優しい嘘までついて。
初めて会った時、彼女が言っていた言葉は真実なのだと、今改めて思った。
『毎日平和で健康で、お互いだけを愛し合っている人が側にいる。私だけの家族。私はお金より、そっちのほうが大切に思えます』
彼女はそういう女性なのだ。
愛情深く、目に見える金や権力よりも人との繋がりを大切に出来る。なのに危なっかしい一面もあって、目が離せない。
ジルベールは今日1日で、どこまでもリサに惹かれていく予感がしていた。
きっともう、彼女を手放すことは出来ない。
ジルベールを振り返ったリサは、少しだけ申し訳無さそうな顔をする。
「…どうした?」
「すみません。せっかく買ってきてもらったのに、私…」
眉を下げて謝る彼女を堪らなく愛しく思い、ジルベールは早朝の広場だということも忘れて彼女を引き寄せ胸に抱きしめた。
「俺は、今の君の行いを誇りに思う」
「…え?」
「自分よりも弱いものを当然のように助け、見返りもなく与えることが出来る。そんな君はとても清らかで美しい」



