話しながらリサはポケットからハンカチを出すと、擦りむいたエリスの膝を優しく拭う。
「痛くて悲しかったのに泣き止んで偉かったね。ご褒美に私がこのジュースに魔法をかけてあげる」
「まほう?!」
「そう。ジュースがもっと美味しくなる魔法。『おいしくなーれ、もえもえきゅん!』」
人差し指をジュースの入ったコップにツンと当てる。
「さぁ、これでもーっとおいしくなったよ。飲んでみて?」
「…ほんとだぁ!」
ジュースを一口飲み、素直に驚いた顔をするエリスに破顔するリサ。
「エリスもまほうつかえるかなぁ?きらいなおやさい出たら、『おいしくなーれ、もえもえきゅん』っていうね!」と得意げに話す様が愛らしい。すっかり涙も止まり、きゃっきゃと声を上げて笑う。
リサは「今度こそ落とさないようにね」と注意をして母親の元に送り出した。
「ありがとう」と満面の笑みを見せたエリスが母親と小さな弟と合流したのを見届けて、ほっと息をついた。
梨沙が生活していた施設『ひまわりの家』にも、あのくらいの年の子がいた。
一緒に暮らす中で、年下の子の世話をする機会も多く、自然と今のような振る舞いが出来るようになった。
魔法はバイト先のメイド喫茶で有料でつけられるオプションだった。
こんな一言にお金を払うお客さんの心情は最後まで理解不能だったが、エリスが笑ってくれたのだから魔法を習得しておいてよかったと前向きに捉えた。



