おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


暖かい春の日差しの中、2人で噴水広場のベンチに座って食べる焼きたてのパンは格別に美味しかった。

軽い口当たりのクロワッサンは表面はサクサクしているかと思いきや、口に入れた途端バターの香りのみを残して消えていく。パイのような生地が何層にも重なって空気をふんだんに含んでいるせいか、あっという間に溶けてなくなってしまうのだ。

リサがあまりの美味しさに感動して目を閉じて噛み締めていると、そんな彼女の様子が可笑しかったのか「ふっ」とジルベールが笑みを零した。

「うまいな」
「はい、とっても!」
「顔つきが昨日の昼食会とは雲泥の差だな」

リサは昨日食べた豪華な食事が緊張で全く味がしなかったことを思い出した。ただ粛々とマナー違反に気をつけてシルヴィアの顔に泥を塗るまいと必死に手と口を動かしていただけに過ぎない。

「あれは、だって…シルヴィア様のふりで…」
「わかっている。自然なリサの表情を見られて嬉しいだけだ」

まただ。
またこの眼差しに心が勝手に踊る。

愛おしいという感情を隠さないような視線を向けられ、恋愛初心者のリサは戸惑ってしまう。

ふわふわのクロワッサンをひとつ食べ終わって、選んだいちごジュースに口をつけようとカップを持つ。
ふと4歳くらいの女の子が噴水の周りを走っている姿が目に入った。その手には、自分たちと同じ店で買ったであろうジュースのカップがある。