「食べようか。飲み物はパンに合うだろうと思ってフルーツジュースにした。オレンジとイチゴ、どちらがいい?」
「…ジルは?どっちが好きですか?」
「リサ。君が好きな方を選ぶといい。どちらも君が昨日の昼に食べていたから好きなのだろうと選んだんだ」
ジルベールは、リサが自分の意見を言うことが苦手だということを察していた。
出会った日の夜は心の内を曝け出すように話してくれたというのに、今は飲み物の種類ひとつ選ぶにも自己主張をしない。
謙虚な娘だというのはわかるが、もっと気持ちを聞きたい。
一体リサが何を好きで、何を感じて、どう思っているのか。彼女の言葉で聞きたいとジルベールは切望していた。
「えっと…じゃあ、いちごを。いいですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます。…実は、果物の中でいちごが1番好きなんです」
赤い方のカップを渡すと、くすぐったそうに笑うリサの微笑みに目が奪われる。
たったこれだけのことに喜ぶ女性が今までいただろうか。
ジルベールが知る女性とは母親か、または父である国王に兄と共に出席させられる社交の場で会う華やかに着飾った貴族の娘たちだが、どちらもドレスや宝石の美しさを競い合い、自身の美しさを讃えられるとこに慣れ、家柄や身分に驕り、尽くされることが当然だと思っている者ばかりだった。
そんな女性というものに辟易していたジルベールの目には、リサは慎ましく思慮深い天使のように映った。
そんな彼女だからこそ守ってやりたい。自分の持てるもの全てを与えてやりたい。リサのためなら世界中から甘いいちごをかき集めてやるし、夜中だろうとパンを焼かせて好きなだけ焼きたての香ばしい匂いをかがせてやりたい。そんな思いにさせられた。



