「あ…」
先に気付いたリサに遅れをとってジルベールを見上げた男2人は、その眼光の鋭さに一気に酔いが覚める。
「いや、別に、俺らは、…なぁ?」
「あ?あぁ、別に何も。ちょっと道を、美味い店を知りたくて。ねぇ?」
なんとも言い訳がましい言葉を口にする2人は、リサの肩に回していた腕に恐ろしい目が向けられていると気付くや否やベンチから大きく飛び退き、ペコペコと軽く頭を下げながら薄くぎこちなく笑って後ずさる。
そのまま脱兎のごとく走って逃げていった2人に嘆息するジルベールは、鋭かった眼差しを心配げに和らげてリサに向ける。
男2人に声を掛けられているリサを遠目で見つけた瞬間、冷や汗が吹き出す思いだった。自分が少しの間離れていた隙に、あっさり他の男にもっていかれては堪らない。
1人が彼女の肩に腕を回した瞬間、彼女の顔はさらに強張り、パンの袋を持っていた手が微かに震えているのがわかった。
それを見た時、帯剣していたら間違いなく抜いていただろうと思うほどの激情が胸を突き上げた。
殴りかかりたくなる気持ちをなんとか抑え付け、それでも隠しきれない苛立ちを声に滲ませて彼らを蹴散らすと、目の前には小さく身体を竦めたままのリサが、自分を見上げている。
「あの、ありがとうございました」
「いや。…何かされなかったか?」
「大丈夫です」
小さく微笑む彼女がいじらしく、守ってやりたいという庇護欲があとからあとから沸いてくる。
危なっかしくて目が離せない。そんな風に思う存在は初めてで、ジルベールは困惑しながらもリサを愛おしく思い始めている自分を御することは不可能だと感じていた。



