おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~



「君、ひとり?」

買って貰ったパンの袋を抱えてぼーっと考え事をしていると、いつの間にか目の前に2人組の男がいることに気が付いた。

ベンチに座っているリサが顔を上げて見ると、2人の男は真っ赤な顔をしていて、吐く息どころか纏う空気すらお酒の匂いがする。今の時間を考えると、きっと夜通し飲んでいたのだろうと察しが付いた。

見知らぬ男達に声を掛けられ、リサは困惑してしまった。

「俺たちこれから朝飯なんだ。よかったら付き合わない?」

こういう時、咄嗟にどういう風にうまく断ったらいいのかわからない。
元々自分の気持ちをうまく言葉に出来ないリサにとって、こういった突発的な出来事に対処することは至難の業だった。

以前バイトしていたメイド喫茶でも多少絡まれることはあったが、それでも酔って来店するような客はいなかった。

真っ赤な顔と酒臭さのわりにしっかりした足取りと口調の彼らだが、酔っぱらいに絡まれるという体験を未成年のリサがしたことがあるはずもなく、隣に座ってきた男に急に肩を抱かれると恐怖で動けなくなってしまった。

「あ、あの…。私は」
「彼女に何か用か」

震える手でパンの入った袋を抱きしめ、必死に1人ではないと主張しようとしていたところに、果実たっぷりのジュースが入ったカップを2つ持って戻ってきたジルベールが、視線だけで人を貫けそうな程鋭い眼差しで男達を睨んでた。