こんな気持ちになるなんて。
思えば、この絵本の世界に来て3日目。夢だと思っていたところからどうやら現実らしいと分かったが、元の世界にはもう戻れないのだろうか。
――――それでもいい。
そう思ってしまう自分に驚く。
あの世界の自分は不幸ではなかった。急にいなくなり、悲しんでくれる人はいるだろう。『ひまわりの家』のみんなはきっとそこら中探してくれるに違いない。それを思えば申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
しかし、ここには『君の居場所になる』と言ってくれたジルベールが居る。
彼と一緒にいたいと思ってしまうのは薄情なことだろうか。
自分の中には、この世界で"リサ"として生きてきた時の記憶が薄っすらだがちゃんとある。この世界のいろんなものに触れるたび、どんどん思い出していくだろう。
日本人である梨沙にはおよそ読めないはずの文字もすんなり理解出来るし、お金の単位やこの国の習慣や文化もわかる。
生きていくに困ることはおそらくないだろうと思われた。
リサは城を出ようと思っていた。そのことも『ひまわりの家』を出ていこうとしていた"梨沙"とシンクロし、既に彼女は"梨沙"としての記憶を持った"リサ=レスピリア"として生きていこうと心に決めていた。



