おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


この話は終わりだとでも言いたげに先に進んでいくジルベールに小走りでついて行く。男性に奢ってもらうことなど、恋愛経験のないリサには初体験だった。

店が並ぶ通りをさらに奥へ進むと、大きな噴水の広場がある。リサとジルベールはそこにあるベンチに座り朝食を取ることにした。

「ここで待ってろ。なにか飲み物も買ってくる」
「あ、それなら私が」
「今は君は侍女ではない。こういう時は男に任せればいい」
「……はい」
「いい子だ」

小さい子供にするように軽く頭を撫でてから、ジルベールは今来た通りへ足早に歩いていく。その背中を見送りながら、リサはすでに胸が一杯で朝食が食べられそうにないと感じていた。

(これって…デート、なのかな…?)

昨日は罰と言われてこの待ち合わせをした。
しかし先程からパンを奢ってもらい、飲み物まで買いに行かせるなど、彼がこの"お忍びのお出かけ"を本気で罰だなんて思っていないことはわかっている。それでも、彼の真意はリサにはわからない。

朝厩舎で待ち合わせをしてから今まで、何度もジルベールの微笑みにドキドキさせられていた。
こんなに鼓動が早くなっては心臓が壊れてしまうのではないかと思うほど早鐘を打つ。

今までにない経験に戸惑いながらも、これが『恋』というものだと漠然と理解出来る。まだ相手を深く知らない間にこんなにも惹かれるのは、やはり絵本の世界で結ばれる運命の相手だからなのだろうか。

いや。もしそうでなかったとしても、きっと彼に惹かれていたはず。
そのくらいジルベールは素敵な人だとリサは思った。