「梨沙…、リサ=レスピリアです」
ここではもう日比谷梨沙ではない。今現在『嘘偽りない自分』はリサなのだ。若干言い慣れない姓にどぎまぎしながら告げると、彼の形のいい唇がリサの名前を呼ぶ。
「リサ。いい名だ」
たったそれだけで、胸がいっぱいになる程の幸福感に満たされる。
しかし今日はうっとりしている場合ではない。ジルベールもすぐに本題に入りたそうにしていた。
「早速だが、なぜ姫の振りをしている?本物のシルヴィア姫はどうしているんだ」
リサは予想していた質問に、あらかじめ考えてきた答えを淀みなく伝えた。
「シルヴィア様は公爵様から突然結婚を告げられ戸惑っておられます。それで、花婿となる王子様の様子を離れたところから見たいと、私と入れ替わる計画を立てられたんです」
リサの答えを聞きながら眉間に皺が寄っていく。
ジルベールは不快さをなんとか押し殺そうとするような表情で彼女を見た。
「入れ替わって騙すのは不誠実とは思わないのか」
「それは……」
騙すだなんて言い方をしないで欲しい。
確かに嘘をついているのは良くないが、シルヴィアだって遊びでしているわけではない。
自分の一生涯の伴侶を選ぶのに、今はこれしか方法が思いつかなかっただけなのだ。決して相手を貶めるための嘘ではない。



