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篝火に照らされた小さなバラ園。
昨夜と同じ場所へ行くと、既にジルベールがベンチに座って待っていた。
今夜もバラを揺らす風が冷たい。
昨日の二の舞にならないよう、夜着の上に箪笥に入っていたショールを拝借して羽織ってきた。
ショールは2枚あり、ひとつは赤色。もうひとつは黒に近い紺色だった。
梨沙は迷わず赤色を選んで羽織った。
もちろん化粧を落とし、ウィッグも被っていない。
自分の姿のまま、この中庭へやって来た。
遠くに彼女を見つけたジルベールはベンチから立ち上がると、その姿を見てとても嬉しそうに目を細めた。
その向けられた微笑みに胸がキュンと鳴く。
「…すみません、お待たせしましたか?」
「いや、構わない」
手を差し出され、何かと思いつつそっと自分の手を重ねると、ジルベールはまるで本物の王子様のように反対の手を梨沙の腰に回し、エスコートしながらベンチに座らせた。
「ありがとう、ございます」
「…何から聞くべきか」
梨沙の手を握ったまま苦笑を浮かべたジルベール。
この格好を見たからには、彼女が公爵の娘のシルヴィア姫ではないと確信していた。
「まずは、君の名前を聞いてもいいか」
(そうだった。私はまだ自己紹介もしていないんだった…)



