その後シルヴィアはジルベールの様子を覗くため、給仕するメイドに混ざりダイニングルームへ戻っていった。
後ろ姿を見送り、テラスから中庭を見下ろす。
水の庭園は美しく整備され、陽の光が池に反射しているのが目に眩しい。
昨夜ジルベールと話した小さなバラ園は、ちょうど使用人の部屋がある別棟の屋根の向こう側に見えた。
少しだけ身を乗り出して眺望を楽しんでいたところに、後ろから急に声がかかった。
「あまり乗り出しては危険だぞ」
「ひっ…」
「危ない!」
突然聞こえた声に驚いて手摺から手を滑らせてしまった梨沙の身体を支えてくれたのは、先程謁見の間でラヴァンディエ王国の王子と呼ばれていたジルベール。
「まったく。危なっかしくて目が離せない」
呆れたように言われて落胆しつつ、支えるために腰に回された腕にドキドキして挙動不審になってしまう。
「す、すみません…」
小声で謝り彼から一歩離れようと身体を引くが、腰に回された腕がそれを拒むように力が籠められた。
「…なぜ、そのような格好を」
耳元で囁くように問い詰めるその声は昨夜のような甘さはなく、低く直接脳に響く。
馬車でも聞いたあの棘のある声に、梨沙は身を竦めた。



