「シルヴィア様…あの…」
口を開きかけながら、なぜか昨夜の出来事を誰にも話したくないという感情が胸に芽生えていることに戸惑いを覚える。
絵本の中のままストーリーが進んでいくとしたら、ジルベールはきっと本当は従者で、ラヴァンディエの王子様は、あの穏やかな微笑みを湛えたローランなんだろうと思う。
ローランも絵本の中の王子様と同じで、金色の髪に深緑色の瞳。
きっと従者であるジルベールと入れ替わってシルヴィアの人柄を観察しようとしているんだと思われた。
でもそれをシルヴィアに伝えると、絵本の中のストーリーから外れてしまう。
梨沙と姫の入れ替わりがバレていると話すことによって、今後のシルヴィアの行動が変わってしまったとしたら、絵本の世界が崩れてしまうかもしれない。
そんなことになったら困る。
絵本の世界を崩さないため。
「リサ?」
「あ、いえ…。…なんでも、ないです」
心の中で必死にそう言い訳して、シルヴィアに入れ替わりがバレていると伝えるのをやめてしまった。



