「リサ、上出来よ!」
ぐったりしてシルヴィアを見ると、上気した頬をほんのりピンク色に染めて梨沙を褒めてくれる。
「お顔と名前は覚えたわ。あとは人となりを観察するだけね」
作戦がうまくいきそうだとほくそ笑むシルヴィアに、ジルベールのことを伝えようか悩む。
ラヴァンディエ王国の王子と名乗るジルベールには、きっと私達の入れ替わりがバレてしまっている。
その理由を説明するには、昨日1日に起こったことを説明する必要があった。
昨夜中庭でジルベールと過ごしたほんのひとときを思い返す。
泣いて濡れてしまった頬を包み込む温かい手。
抱きしめる腕の力強さ。
ほのかに掠める柑橘系の香り。
夢だと思っていたが実は現実だったあのひとときは、梨沙にとって大切な思い出の時間。
ジルベールがどういう気持ちで『俺と一緒に来い』と言ってくれたのかわからない。1人が寂しいと泣く梨沙に慰める気持ちで言っただけかもしれない。
それでも、誰にも言ったことのない心の中の不安を聞いてくれて、さらに励ますように抱きしめてくれた優しさに触れ、梨沙は彼に惹かれる気持ちを止められないでいた。
昨夜のあの中庭での出来事は、梨沙の宝物だった。



