おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~



「ジルベール殿、娘のために遠いところをよくぞ参ってくださった。これが我が娘、シルヴィア」

公爵の挨拶が始まり我に返った梨沙は、シルヴィアから教わった通りに姿勢を正したまま片足を引き膝を軽く曲げた。
ここでは口を開く必要はないと言われていたので、カーテシーと呼ばれるお辞儀だけに留める。

「妻が早くに天国へ旅立った私にはこのシルヴィアしか子がない。彼女を愛し幸せにすると誓い、なおかつ彼女が愛した男にこのレスピナードを託したい。そう貴殿のお父上と話していたのだ。少しの間だが我が城でごゆるりと寛がれるがいい」

そのまま場所を移して昼食会が始まったが、シルヴィアの振りをして食べる食事は味も何もわからない。
ただ教わった通りに上品に食材を口に運び、たまに目の合ってしまうジルベールには引きつった微笑みしか向けられない。

公爵とジルベールが話しているのに、適当に相槌をうつのが精一杯。たったそれだけのことがとても神経を擦り減らしていった。


せっかく近隣の大国の王子と話す機会とあって、政治的な話も多々飛び交う。

公爵は娘であるシルヴィアや梨沙にそうした話を聞かせる気はないらしく、梨沙に向かって「お前は食事が終わったら侍女と風にでも当たっておいで」とやんわり会話の輪から外してくれた。

有り難くそれに従い、食事を終えた梨沙はメイド姿のシルヴィアとともに4階のダイニングルームを後にすると、隣りにある大広間のテラスに出た。