ジルベールは華やかに飾られた大広間を見て、密かにため息を吐いた。自分は断ろうと決めている縁談の相手から過剰なもてなしを受けるのは良心が痛む。
しかも今回は――――、少しばかり相手に黙っている秘密があるのだ。
これについては国王である父も知らない。いや、もしかしたら今頃気が付き、国でひっくり返っているかもしれない。
ジルベールが結婚をしたくない理由は剣術に身を捧げる以外にもう1つあった。
彼は女というものが苦手だった。女性と関わる機会が少なかったのも理由のひとつかもしれない。
十の歳には他の貴族の子息と共に騎士見習いから始め、騎士の養成士官学校にも通った。当然周りはみんな男ばかり。
しかしそれだけではない。
ジルベールは一番身近な女性である母親が苦手だった。
当時ラヴァンディエ王国の王子であった現国王の父と、貴族の令嬢だったジルベールの母は政略的結婚であり、恋愛感情などなかった。
その婚姻は絶対的な王命ではなく、母親は何人かいた王妃候補の1人に過ぎなかった。
しかし、当時恋人がいたジルベールの母は、国王の妻、王子の母になりたいがために王妃となり、愛してもいない男の子供を2人も産んだ。今や夫とは一緒に暮らしてすらいないのに、それでも人の前に出れば幸せそうに笑っている。
その事実が実直なジルベールには理解し難く、また嫌悪したくなるものだった。
野心のためなら大切な人を裏切り、自分の心にまでも嘘をつく。女とはジルベールにとってそういう生き物だった。
王族や貴族の結婚なんてそんなものだと15歳だった兄はまだ12歳のジルベールに笑っていたが、それならば自分は結婚などしたくない。
国王となる兄を剣で支え、このラヴァンディエを共に守っていく。それでいいのだと思っていた。



