おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


それでも、ジルベールはひと目見て梨沙だと気付いたらしい。
絵本のシナリオを考えれば、早速こちらも入れ替わっている事がバレてしまったのはとんでもなくまずい。

お互い様だと言えばそれまでだが、主催した側が来賓をだましているのだから、ちょっと居心地が悪いのは否めない。

しかしそれ以上に、ジルが自分に気付いてくれたのが嬉しくて梨沙は胸が熱くなる。

昨日の姿とは全く違うのに、それでも自分に気が付いてくれた。その事が梨沙をこれ以上ないほど喜ばせていた。


ジルベールはラヴァンディエ王国の国王である父の命令で、このレスピナード公爵の1人娘シルヴィアの花婿候補としてやって来た。

彼には兄がおり、ラヴァンディエは兄が王位を継ぐ予定のため、この縁談で父親同士が親交の深いレスピナードに婿に出し、友好関係を盤石にするのも吝かではないと第二王子である彼が否応なしに送り出された。

しかしジルベール自身は身を固める気は全く無い。王子とは言え騎士団に身を置く彼は、妻を娶る気もなく生涯を剣術に捧げる覚悟だった。

それを国王である父にも告げたが、なにせ1度会ってみてから決めろとうるさく言われ、『会ってダメだったら友好同盟の永久締結の署名だけを持って帰る』と約束し、このレスピナードまで遥々やって来た。

言い出したら聞かないのがラヴァンディエ家の男達の気性だ。父も祖父もそう。さらにはジルベールの兄にもその頑固な質は継承されている。自分だけは違うとジルベールは思っているが、当然本人にもしっかりとその血は受け継がれている。