しかし、梨沙は知っていた。
ここは『私だけの王子様』の絵本の世界なんだということを。
梨沙達だけでなく、ラヴァンディエの王子様も従者と入れ替わっていることを、絵本を読んでいた彼女は知ってしまっているのだ。
その証拠に、ローランはリサの後ろに控えるメイド服姿のシルヴィアに目を奪われている。
ということは…。
『まぁ……、芝居を打ちに』
ジルベールが言っていた芝居とは、どこか舞台上でお芝居する役者なわけではなくて…。
(王子様役って…この入れ替わりのことだったんだ!)
「お初にお目にかかります。ラヴァンディエ王国のジルベール=ラヴァンディエでございます。父がくれぐれも宜しく伝えて欲しいと申しておりました」
この花婿をもてなす宴の主催者であるシルヴィアの父、レスピナード公爵に美しい所作で片膝を付き頭を下げたジルベールは、その隣にいる梨沙の顔を見て目を見張った。
(なぜ、君がそんな格好でその場所にいるんだ…)
そう思うのは当然だろう。
昨日この城に来る途中に道で倒れていたメイドが、豪華なドレスを着て公爵の傍らにいるのだから。
今の梨沙は昨日とは別人だった。ほぼすっぴんだった昨日とは違って今日はエマに念入りに化粧を施され、ストレートの黒髪は綺麗にカールされたブロンドになっている。
メイド服やパジャマのワンピース姿ではなく、豪華できらびやかなドレス姿。



