「出ていこうと決めたのは私なんです。もう、あそこに私の居場所はないから…」
肩に掛けてもらった軍服の襟元をぎゅっと握りしめる。
「でも、覚悟してたとはいえ、1人で暮らすなんて本当は…怖くて……」
不幸だと思っているわけではないし、自分の境遇を考えれば周りの人達に恵まれている方だと思っている。
今いる場所を出るのだって自分で決めたこと。
でもこれからは本当に1人で生きていくんだと荷造りをしながら実感してしまい、梨沙は途方も無い不安に押し潰されそうだった。
「誰にも頼れないのは、寂しくて…」
ずっと押し殺していた感情が、涙となって次から次へと溢れてくる。
隣に座り黙って梨沙の話を聞いていたジルベールが、大きな手で彼女の頬を包み込み、親指でそっと涙の痕を拭う。
今まで男の人に顔を触られた経験のない梨沙はそれだけで固まってしまったというのに、彼はさらに顔を近付け、瞳に溜まった涙を吸い取るように唇を寄せた。
「ひゃっ」
目尻に触れた柔らかい感触に、思わず間抜けな声が出た。
ビクンと大袈裟なほど身体が跳ね、顔から湯気が出そうなほど自分の頬が熱くなっていくのがわかる。
「ジ、ジル…」
「…悪い。女は苦手だ。泣いていてもどうしてやったらいいのかわからない」
ジルベールはそう言いながら、リサの火照った頬を温かい手で撫でた。