施設暮らしで自分のことに精一杯で、恋をしている暇なんてなかった。ちょっといいなと思った人がいても、施設出身だと知ると必ず気まずそうにしたり、中には明らかな拒否反応を示す人もいて、恋愛に発展することはなかった。
でも今、目の前のジルベールに見つめられるだけでドキドキしている自分がいる。
(こんな夢を見てしまうほど、もしかして私は恋をしてみたかったんだろうか)
深緑色をした瞳が梨沙を真っ直ぐ映している。それだけでくすぐったいような気持ちになる。
「ありがとうございます。あったかい」
上着を貸してもらった礼を伝えるだけで声が震えてしまった。
夢の中の相手に恋をするなんてバカげてる。
それでもジルベールに惹かれるのを止められない。まだ1人で生きていかなくてはならない現実に戻りたくない。
切ない気分を振り切ってなんとか微笑んで見上げると、ジルベールは目を見張った後、それをごまかすように咳払いをした。
「…こんな所で、1人で何を」
ここは夢の中。
少しだけ。夢の中でだけなら弱音を吐いても許されるだろうか。
きっともうすぐ目が覚める。
そしたらまた1人で頑張るから。
育ててもらった施設を出て、頑張って自立するから。
だから今だけ…。



