それは衣装なはずなのにずっしりと重たく、肌触りはなめらかで良い生地を使っているのがわかる。まるで本物の王族が着る仕立てみたいだ。
昼間も感じた柑橘系の香りにすっぽりと包まれる。
あの馬車の中で広い胸に抱き止められた記憶が頭をよぎり、寒かったはずの身体に熱が籠もるのがわかった。
「あ、でも、あなたが…」
コートを脱いだら薄手の白いシャツにベスト姿。
まだ芝居が終わっていないということだし、風邪でもひいたら困るんじゃないだろうかと心配になった。
「ジルベール」
「…え?」
「ジルベールだ。…ジルでいい」
聞き慣れない外国の名前に戸惑って聞き返す梨沙に、呼びやすい愛称を教えてくれた。
馬車の中での棘のある声と表情は見受けられず、その口元には優しげな微笑みをたたえている。
その微笑みはまるで本物の王子様のようで、梨沙はドキンと鼓動が早いリズムを打ち始めたのを感じた。
「ジル…」
今教えてもらったばかりの愛称を口にしてみる。それだけで、なぜか胸がいっぱいになった。



