「あの…、さっきは送ってくれてありがとうございました」
一瞬驚いたような顔をした後、すぐに穏やかな表情を向けてくれる。
「いや、こちらこそ勘違いで酷い言葉を言った」
勘違い…。そういえば、あの場所で倒れていた狙いとか、そんなことを言っていた気がする。
そこからなぜか側室なんて単語が出てきて、何がなんだかわからないまま反論してしまったが。
(この軍服のイケメンさんは、私が王子様の側室になりたくて待ち伏せしていたと勘違いしたっていうことなのかな)
そんな肉食系メイドに見えたんだろうかと内心首を傾げつつ可笑しく思った。なんせ梨沙はまだ1度も恋をしたことがないのだから。
とはいえ、勘違いだとわかってもらえたのなら良かったと胸を撫で下ろす。
「いえ。気にしていません。あ、話していたお芝居は終わったんですか?」
「……いや、まだだ。憂鬱で仕方ない」
(あれ、でも王子様の衣装を来て馬車に乗っていたのに…)
そもそも花婿候補の王子を歓迎する宴の中に、芝居を上演する予定などあっただろうか。
浮かんだ疑問を考えるより先に「っくしゅ!」とあまり可愛くないくしゃみが出てしまった。
春の夜風が中庭の木々を揺らす。
昼間はぽかぽかな気候だったのに、夜はまだ少し冷えるらしい。
「そんな薄着でいるからだ」
ジルベールが軍服を脱ぎ、梨沙の肩に掛ける。



