おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


「じゃあ…」
「うん」
「来月もまた、こうして2人であの孤児院に行きたいです」
「孤児院に?」
「きっと出産前最後になると思うから。子供たちが育てた真っ白な大輪のバラを、ジルと一緒に見たいんです」

孤児院の端にバラ園を造りたいと言い出したのはリサだったが、苗木を選んだのはジルベールだった。
庭園には赤やピンクといった華やかな色合いのバラを植えるのを好まれることが多いが、ジルベールはリサに相応しい純真で清らかな『永遠の愛』という意味合いを持つ真っ白なバラの苗木だけを選んだ。

片時も不安にさせたくない。自分の持ち得る力全てを使って甘やかしたいと願うジルベールは、自己主張が苦手なリサの『欲しいもの』に相好を崩す。

「君は相変わらず無欲だな」
「え?」
「こうして王太子妃になったというのに。なかなかうまく甘やかしてやれなくてもどかしい」

今リサの左手の薬指にあるのは、繊細な宝石彫刻のラヴァンディエ王家の紋章入りリング。宝石は何色がいいかと聞くと、リサは少し考えた後に恥ずかしそうにしながら「ジルの瞳と同じ色の石があれば」と答えた。

以前贈られた赤い石の指輪は、未だに右手の薬指に飾られている。

最高級の翡翠を取り寄せ、国一番の職人に手掛けさせたこの指輪だけは、ジルベールが受け取って欲しいと結婚式前夜に贈り、リサも喜んで身につけている。

その指輪のはまった小さな左手が、大きく重そうになったお腹を微笑みながら撫でるのを見つめた。