「相変わらずこの程度で赤くなる」
「もう…、わかってるならやめてください」
「そんな顔を他の男に見せたくない。俺以外に口説かれるな」
こんなに頬が熱くなるほど口説いてくる人なんてジルベールしかいない。
そんな反論が頭に浮かんだが、リサはこれ以上分不相応な賛辞を並べ立てられれば頭から溶けてしまうと口を噤み、こくんと頷いた。
ガタガタと大きな音を立て、ラヴァンディエ王家の紋章の入った大きな四頭立ての赤い馬車が、夕日に照らされながら走る。
大好きなジルベールと夫婦になって3年。来月には家族が増える。
ずっと望んでいた『自分だけの家族』。血を分けた家族が生まれるのを、リサは不安と期待で胸をいっぱいにしながら待ち侘びていた。
「出産が不安か?」
しきりに腹部をさすってしまったせいか、ジルベールが心配げにリサを見る。
初めての出産。
無事に産めるのか。両親を知らない自分がこの国の跡継ぎとなる子を育てられるのか。
我が子の誕生が楽しみで仕方ない一方、言葉では言い表せないプレッシャーに押し潰されるような感覚に陥り、不安で仕方なくなる時がある。
「いえ、あ…少しだけ」
つい強がって否定しようとしたリサだが、ジルベールがそれを望んでいないことはこの3年で学んでいた。



