おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


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「シルヴィア姫が無事に国民の前でフィリップをお披露目したそうだ」

孤児院の食堂で子供たちと共におやつを食べ、テオドールを含む何人かの活発な男児に士官学校へ通いたいのなら支援する意思を示し、司祭たちに何か困っていることはないかと聞き取りを行った後、ジルベールは妻と共に馬車に乗り王宮への帰路についた。

「君が王宮を出たすぐ後に早馬が来たんだ」
「わぁ!今日で産まれて1週間ですもんね。お2人ともお元気そうで良かった」

リサが嬉しそうに手を合わせてはしゃぐ様子を目を細めて見つめるジルベールは、そっと彼女の肩を抱き寄せて自分の胸に囲い込む。

「…ジル?」
「いや。リサが嬉しそうで俺まで嬉しくなっただけだ」

結婚して3年経っても、リサはジルベールの甘いスキンシップに慣れることがない。日々注がれる真っ直ぐな愛情溢れる視線に、相変わらずドキドキする毎日だった。

あれから、ローランとジルベールはラヴァンディエ国王とレスピナード公爵を交えて話し合い、互いの愛する人と結ばれる承諾を得て、ローランがシルヴィアの元へ婿入りするのと入れ違うように、リサはジルベールの元へ嫁ぐこととなった。

その際レスピナード公爵は養子縁組を結び、リサを自分の養女としてジルベールの待つラヴァンディエ家へ送り出してくれた。

畏れ多いと恐縮しきりのリサだったが、本当に妹になったと諸手を挙げて喜ぶシルヴィアと、あちらの社交界で挨拶する際にその方が何かと便利だという公爵のアドバイスを聞き入れ、有り難くその話を受けることにした。

リサ=レスピリア改め、リサ=レスピナードは今から3年前の秋にジルベール=ラヴァンディエの妃となった。
2人が出会ってから、わずか半年後のことである。