「上手に育ててるね。蕾が開くの楽しみ」
「リサのために一生懸命育てたんだ」
「私の?ふふ、ありがとう」
「これで俺の嫁になる気になったか?」
隣に立つテオドールが、リサの手をぎゅっと握った。
ここ1年程、年頃になったテオドールはリサを口説き落とそうと必死だった。そんな彼に少しだけドキドキしつつ、やはり可愛く思いながらリサは言葉を探した。
「テオの周りには、もっと可愛い女の子がたくさんいるでしょう?」
「俺はリサがいい。だから俺と結婚しよう」
「それは出来ない相談だな」
テオドールに手を握られたまま、聞き慣れた声に振り返る。
そこには不機嫌そうなのを隠さずにこちらを見やるジルベールの姿があった。
「ジル…、来てたんですか」
「テオ。リサから手を離しなさい」
「嫌だね!王子だからってリサをひとり占めするなんてズルいだろ!」
「ズルいも何も、リサは3年前から俺の妻だ。ひとり占めして何が悪い」
顔を合わせる度に始まる口論は、すでにこの孤児院の名物になりつつある。言葉を挟む隙もなく言い合う2人に挟まれ、リサは俯いて赤くなった頬を隠す。
ジルベールは子供相手にもリサへの独占欲を隠さない。
それが嬉しくもあるがくすぐったくて、毎回この場でどう居たらいいのか身の置きどころがなくなってしまう。今日は他にギャラリーがいないのが唯一の救いだった。
テオドールはこの国の王子相手にも怯まず物を言う怖いもの知らずな性格だが、ジルベールがそんな彼を気に入っていることはリサも分かっていた。
今日はきっと騎士の養成士官学校へ入らないかと話をしにきたのだろう。
微笑ましい口争いがやまないのを見かねて、リサはみんなでおやつを食べようと室内へ促さなくてはならなかった。



