おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


「リサしか欲しくない」

可愛い顔でこくんと小さく頷くリサだが、彼が言う『リサしか欲しくない』という正確な意味は伝わっていない。

それを察したジルベールは苦笑しつつ、触れるだけの口付けに耳まで真っ赤にする未来の妻が可愛くて、彼女の心と身体の準備が整うまで自制心と理性の手綱を手放さないようにしなくてはと自らを戒めた。

ジルベールは指輪のはまるリサの右手を取り、ベンチから腰を上げると彼女の前で片膝を付く。

「ジル…?」

その甲にゆっくりと唇を寄せた。


「リサ=レスピリア嬢。私の妻になって頂けますか?」


触れられた指先が震え、そこから全身に甘い痺れが広がっていく。
リサは崩れそうになる膝になんとか力を入れて立ち上がると、肩から掛けていた軍服が落ちてしまうのも厭わずに、目の前で跪くジルベールの首に自分の腕を回して抱きついた。


「私でよければ、喜んで」

まるで絵本の王子様のようなプロポーズ。
そんな場面を自分が演じているのだと思うと恥ずかしくて、逞しい肩口に顔を伏せる。