おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


「もっと俺を頼ってほしい。遠慮などせずに甘えてほしい」

ジルベールはリサの顎に指をかけて掬い上げると、しっかりと視線を合わせて懇願するように見つめる。
切なさを纏うジルベールの言葉に、リサはぐっと胸を詰まらせた。

「君の気持ちを聞きたいし、望みは全て叶えてやりたい。だが剣術だけに打ち込んできたせいで、どうしたら君をうまく甘やかしてやれるのかがわからない」

眉間に皺を寄せ「つまらない男でガッカリしたか?」と聞く彼に、リサは小さく首を横に振って否定してみせた。


「あなたが好きです」

自分の顎に添えられていたジルベールの手を取り、頬を寄せる。その手がピクリと小さく跳ねたのに気付かぬまま、リサは言葉を続けた。

「私はもう十分あなたに甘やかされています。王子をジルと愛称で呼ぶことを許してくれて、居場所になると言ってくれた。この指輪も…」

目線の高さに掲げたリサの右手には、ジルベールから貰った赤い石のついた宝物が在るべき場所に戻っていた。

そのままジルベールの手のひらに頬を擦り付けるような仕草をする。まるで子猫が主人に甘えるような愛らしさに、ジルベールはグッと喉を鳴らして、目の前の彼女をすぐにでも自分のものにしたい欲望に耐える。