おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


しかし、弟のジルベールは優秀な男だ。
自分がレスピナード公国に婿入りし、弟がラヴァンディエの王位を継ぐ。ジルベールはシルヴィアに興味がないようだし、このシナリオならば万事解決。

レスピナード公爵としては王子のどちらだって構わないはずだし、父王は最初は憤慨するだろうがジルベールの優秀さは分かっているはずだ。きっとうまくいくに違いない。

そう考えたローランは居ても立ってもいられず弟を説得し、従者のフリをしてここまでやってきた。国王である父には何も告げず、手紙のみを残してきた。

次々に明らかになる事実に、リサは相槌も打てずにただ聞き入るしか出来なかった。頭の片隅で、馬車の中で芝居を打ちに来たと言っていたのはこの事だったのかと小さく納得した。


「まさかシルヴィア様が知っていたなんて…」
「俺たちが街に出ている間に、兄はシルヴィア姫に全て打ち明けたそうだ」

ふわっと生温かい夜風が吹き、バラの甘い香りが漂う。
ジルベールが軍服を掛けてくれたおかげで寒さは感じない。

リサはシルヴィアとの会話を思い出し、ため息を吐いた。

『ねぇリサ。ジルベール様をどう思う?』

ジルベールと内緒で街に出た翌日、シルヴィアに彼の印象を聞かれ大いに戸惑った。
結婚に否定的だったシルヴィアがジルベールを観察して主張を変えたのだと、彼女もジルベールの魅力に気が付いたのだと、胸が潰れる程痛んだのは記憶に新しい。