おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~



「いいえ、レスピナード公爵。私の花嫁はシルヴィア姫ではありません」

ずっと片膝をついていたジルベールはすっと立ち上がると、ゆっくりと振り返る。
この謁見の間に来て初めてリサと視線を合わせ、愛しい者に向けるとろけるような微笑みを見せた。


「私の花嫁は、―――リサ、おいで」


片手を伸ばし、リサを呼ぶジルベール。
何が起こったのかわからない。とてもじゃないが理解が追いつかなかった。

深緑色の瞳は間違いなく自分に向けられている。リサはその眼差しを真っ直ぐに見つめ返すことが出来ないでいた。

一体何が起こっているのだろう。
なぜ彼はシルヴィアではなく自分の名前を呼んでいるのだろう。

「リサ」

再度呼ばれても、足が竦んで動けない。

それでもあの眼差しを見れば、自惚れじゃなく自分が求められているのだと理解出来た。

シルヴィアではなく、ジルベールはリサを求めている。

返事をしてもいいのか。彼の側へ行ってもいいのか。
何も考えられず、どうするのが正解なのかわからない。戸惑いで寒くもないのに身体が震える。