さらに彼は国を継ぐと言った。
以前聞いた話では、彼には兄がいたはずだ。その兄が王位を継ぎ、自分は彼を剣で支えるつもりだったと話していたはずだ。
そこではたと気付く。
確かにジルベールは『王位に興味はなく、兄を影から支えていくつもり"だった"』と過去形で話していた。
もうあの話をしていた時には既に、兄に代わり国を継ぐ気でいたということだろうか。
一体なぜ。
シルヴィアはどう思っているんだろう。リサは痛む胸を抑えながらジルベールの背中ではなく、前を見据えたままのシルヴィアを見つめた。
彼女はジルベールに寄り添うでもなく、ただじっと成り行きを見つめているように見える。
「ジルベール殿。御存知の通り私にはこのシルヴィアしか子供がいない。あなたはシルヴィアを連れて国を継ぎ、我が公国を属国にでもしようというお考えか?」
普段は使用人に対しても決して声を荒げる事のない穏やかな公爵の言葉に、多分に険が含まれる。
小さいとはいえ20年以上にわたり国を治めてきた一国の主の貫禄を感じさせる声音だった。
リサは公爵のそんな一面を見るのは初めてだった。
いつかの会議でも難しい顔をしていたと記憶の彼方に映している表情以上に、今彼の顔は険しい。
しかし、ジルベールはそんな公爵のピリッとした空気に怯むことなく、次の言葉を放った。



