「彼女を愛しています。もう手放せない。国に帰り、彼女を妻にして、私はいずれラヴァンディエ国王の座を継ごうと考えています」
真っ直ぐに前を見据えて話すジルベールの言葉が、鋭い刃となってリサの胸に突き刺さる。
『彼女を愛しています』
ジルベールはそう言った。
リサが1度として聞いたことのないその言葉を、彼はシルヴィアに向けて告げたのだ。そのことがリサを悲しみのどん底へ突き落とす。
あのバラ園での『俺が、君の居場所になる』という言葉も、お忍びで出掛けた時に見せてくれた優しさも、贈られた指輪も、抱きしめられた時の体温も、微かに香る柑橘系の香りも。
全てリサの中に深く刻まれてしまっているというのに、ジルベールは今シルヴィアを愛しているという。
彼女ほど魅力的な女性なら、あっという間に心惹かれても仕方ない。
むしろそうなる運命なのだ。これで絵本の通りハッピーエンドだと納得させようと心に言い聞かせてみるが、なぜか上手くいかない。
シルヴィアが他国へ嫁いでしまえば、公爵の跡継ぎがいなくなり、きっとこの小さな国は後継者問題で荒れるだろう。そんなことは政治に詳しくない女子供でもわかる。
それでもジルベールはシルヴィアを連れてこの国を出ようというのだろうか。



