しかし、意外にも次に声を発したのはシルヴィアではなくジルベールだった。
「レスピナード公爵。今日はお願いがあってこうして人払いをしてまでお時間を頂きました」
今謁見の間にいるのは公爵とシルヴィアとリサ。それにジルベールとローランのみ。
いつもなら侍従やメイド達が何人かその場に控えているが、今日は皆下げられていた。
「何だね。ジルベール殿が私に人払いしてまでするお願いとは」
片膝をついたジルベールに、公爵は意識して穏やかに問いかける。
これから目の前の青年が、何かとんでもないことを言い出しそうな予感に身が竦む思いだった。
そして、その予感は残念ながら当たってしまう。
「私の花嫁を、ラヴァンディエへ連れ帰るお許しを頂きたいのです」
「なんだって?!」
声を上げて目を見開く公爵以上に驚いていたのは、ドレスを来たまま後ろに控えていたリサだった。
シルヴィアは公爵の1人娘。他にこの国を継ぐ爵位を継承する者はいない。
だからこそ公爵は、シルヴィアの夫にはこの国と娘という2つの宝を預けられる人柄を持った人物を探してこの10年悩み抜いてきたのだ。
それを当然ジルベールもわかっていて花婿候補として来ただろうに、突然の申し出に開いた口が塞がらない。



