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シルヴィアに連れられて城の5階部分にある謁見の間に着いた。隣は大広間の吹き抜けの天井になっていて、細長いその部屋は赤い絨毯が敷かれ、1番奥に5段ほどの階段の上に豪華な玉座が置かれている。
そこには既に彼女の父であるレスピナード公爵が腰を下ろし、正面にはジルベールの姿があった。
3日前にここで彼を見た時は、絵本の通り『王子様役』で、本当は従者なのだと疑いもしなかった。
「お待たせしました。お父様、ジルベール様」
シルヴィアが公爵に膝を折ったのを見て、自分は侍女として後ろに下がろうとスカートを持つ。
そこで初めて、リサは自分がいまだにドレス姿でこの場までやって来てしまったことに気が付いた。
しまったと思った時にはもう遅い。公爵とジルベールの視線が、声を掛けたシルヴィアとその後ろにいたリサに注がれた。
「シルヴィア。これは一体どういうことかな?」
シルヴィアを溺愛している公爵も、さすがに眉間に皺を寄せる。
娘がこの花婿候補を観察するために侍女と入れ替わりたいと言ってきたときも驚いたが、そのリサと揃ってジルベールの前に現れるとは。
当然無礼なことをしているのだから謝罪の用意はあった。しかし何事にも準備や順序というものがある。
一体自分の娘は何を考えているのか。ジルベールの手前感情を露わにしないよう落ち着いた声音で問いかけた。



