おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~


それでも梨沙にとってお姫様は、シンデレラでも白雪姫でもなく、この『私だけの王子様』のヒロイン、シルヴィア姫だった。

姫の花婿候補である王子が城を訪れるところから物語は始まる。

王子の人となりを探るため侍女と入れ替わって観察しようと思ったものの、姫が見初めたのは王子の従者だった。

身分違いの恋と思い悩みながらも、シルヴィア姫は従者に『たとえ使用人だとしても、あなたは私にとってたったひとりの王子様です』と想いを打ち明ける。

結局王子様も従者と入れ替わっていたことが分かって、身分の差もなくハッピーエンド。

よくある意地悪な継母や怖い魔女の出てこないこの絵本が今も大好きで、たまに読み返しては空想に浸ってしまう。


(もし……。もし私にも自分だけの王子様が現れたとしたら…。)


子供じゃあるまいし、本当に白馬に乗った王子様が迎えに来るなんて信じているわけではない。

しかし梨沙は『私だけの』という部分にどうしても惹かれてしまう。

施設のみんなは家族みたいなもの。
もちろんそれは本心だが、『私だけの家族』ではない。

もう両親に会うことは叶わなくても、これから先『私だけの家族』をつくることは出来る。

読み込みすぎて端が擦れてしまっている絵本を手に取り、ゆっくりと表紙をめくる。