つい昨夜夢で見たばかり。
リサは日毎にこの世界での記憶を鮮明に取り戻していた。日本での生活を忘れたわけではないが、今はもうこの世界の住人だという意識のほうが強い。

確かあの後、土で汚れたシルヴィアに真っ青になったのはドレスを管理するランドリー係のメイドだけで、少女達を見た公爵はそれは可笑しそうに笑っていた。

その日は城に多数の他国の重鎮達が来ていたとあってすぐに着替えさせられたものの、娘が土いじりをするのを咎めるつもりはなかったらしい。

後日またモーリスを手伝いにいくのならシルヴィアにも声を掛けてやってくれと、リサは公爵から言われたことを思い出した。

まだ9歳だったにも関わらず、あの頃からすでにシルヴィアは美しかった。レスピナード公爵の1人娘という肩書きに加え近隣諸国随一の美貌と謳われるだけあって、縁談は引っ切り無しに持ちかけられていた。

娘を溺愛する公爵のお眼鏡に適う相手がなかなか見つからず、その後10年近く彼女の花婿選びは難航することになったが、今日ようやくそれが終結しようとしている。